フランダース

 東京の町の面白いところは、町ごとに趣向があるところで、冒険者の町アンキルト、妖怪の町ネラーディス、ランウェイの町リセラ、知の町神保町、電気の町秋葉原、文化の町上野、みたいな風な、これはRPGとまったく同じである。RPGの面白みの一つに新しい町に行くことがあって、それは魔王を倒すことよりよっぽど興味深い気がしている。
 普段は近所の河原の周囲をうろうろし、咲いた花に微笑みを投げかける、あるいはコウモリを見て怪しい気分になる、または仲良しのカラスを見て愉快になる等の、ぼんやりした散歩を繰り返してきたけれど、このたび新しい散歩ルートを開発することにして、仕事帰りによく行く町である神保町まで電車で移動をする。

 

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 今回の散歩ルートを地図で確認してみるとこのようになる。
 神保町から秋葉原秋葉原から上野のルートは、見所がたくさんあって楽しい上に、それぞれの町の特色がはっきりと分かれているのでとてもよい。1時間あれば歩き終わる。歩くのが好きで、かつオタク文化に理解のある方にはよいとおもう。

 神保町は11月4日まで神田古本まつりを開催しており、地図に示した神保町から秋葉原へのルート、国道302号線沿いの歩道には提灯が連なって、古書店の露店がひしめいているという素敵な状態になっている。知のパラメータが高そうな人々が積み上げられた本を眺めている姿を見ているだけで心なしか自分の知力が上がったようにすら思われる。神保町・神田の近辺といえばカレーが有名で、ラーメン店も多いのでひもじい思いをしなくても済む。居並ぶ癖の強そうな古書店を見ているだけで幸福だけれど、高いビルの上の方までずっと本屋の三省堂は欲しい本がたくさんあって素晴らしくて苦悩もする。

 秋葉原は駅前の巨大ダンジョンであるヨドバシカメラを筆頭にあやしい電気パーツ屋さんや、フィギュアやグッズがたくさん売っているホビー天国のぎちぎちの空間で確実に情報処理能力が低下していく。外国人観光客が街路をひっきりなしに行き交い、10mごとに忍者や女子高生やメイドや、ひと目見ただけでは何者なのかよく分からない人達がビラを配っている。店先に並んだ正体不明のおもちゃや何十年も前のゲーム機やコピー商品っぽいTシャツやたい焼きや、などの隙間に青い半纏を着た山羊髭のやせ細ったおじいさんや、ケバブやサンボや、UDXの階段に座り込む疲れた人々やガンダムカフェなどが見所の秋葉原の本当に僕が好きなところは、秋葉原には本当には何もなさそうなところだ。ちょっと信じられないくらいたくさんの物が詰め込まれている秋葉原はそれでもなんだかふわふわしていてとらえどころが無い。

 秋葉原から御徒町駅前を通って上野に着くとアメ横の喧騒の中を通過する。一体何度閉店するのかわからない閉店セールばかりしているお店と魚介の匂いと大衆居酒屋とあまりに威厳がありすぎて入るのが難しい喫茶店とミリタリーショップとアメリカンカジュアルの服飾店、階段を降りると地下には外国人向けの食材マーケットが広がっていて異国の食材がひしめいていて見るからに不穏でもある。上野の持っている抜け目のなさ、みたいな感じが下町感を残していてタフな感じがする。アメ横よりも好きなのは上野公園のストリートミュージシャン達と博物館と美術館で、心が疲れた時には、なんだかこうもやもやする時には、美術館で絵を見て一度感性の慣性を壊した方がいいと思っていて、それはスクラップ&ビルドということで、生活に根ざした新しい視点を手に入れようと頑張ろうとしているのかもしれないなと思ったりして、とても簡単に言うなら100年前から守られてきた絵の力で僕の感性は一度死にたい。美術館を目指す僕はフランダースだ。