光の形

 手のひらに収まる大きさの四角い光が部屋の中に浮かんでいる。
 すこしまぶしい。
 白い光はカーテンが閉ざされた部屋の中で、とても静かだった。
 光からは音がしない。四角い光の性質も、それほど主張するものではなかった。
 手に持った光の中には文字が書かれている。
 白い光の中に文字が刻まれていて、指で触れると、文字は左右に動かすことができる。
 小さな明かりの中の文字は連なっていて、ひとつの物語になっている。
 物語が光を放っているようだった。

 寝室から居間に向かう。
 照明を灯していない無人の部屋はよそよそしい。
 朝の陽の光は明るさが少し足りなくて青っぽい光に見える。
 窓から忍び込んだ青い光が、居間の中に満ちている。
 窓は青白い光を縦長の長方形に整えた。
 光はガラス窓を透過し、壁や床に反射し、部屋の中に拡散する。
 拡散した後、光の粒子は勢いを失って急激に速度を落とし、熱を忘れる。
 そして消える。光が光の速度で、人が見ることができる姿を失う時、光はとても静かだ。
 光のあるところにはいつも音が響いている気がしていた。
 それでも光そのものは、なんの音も持ち合わせてはいない。
 様々な形の光は、とても静かだ。

 ひと駅歩いて帰ろうと考え、自宅のある町からひとつ遠い駅で電車を降りる。
 ホームを通り過ぎ自動改札を抜け、深夜の町に踏み出す。町は暗く、昼間に比べると音が少ない。
 それでも夜の町は常にざわざわと震動している。
 自動車の走行や、風に揺れる街路樹の枝葉や、黒猫の散歩や、マンションの中で休んでいる人々の生活が渾然一体となって、空気と地面を震動させていた。
 照明のついた道から外れ、大きな木の植えられた公園様の道に入る。
 公園の道と並行して、高架橋が続いている。
 高架橋を見上げていると、夜の暗さの中に、四角く切り取られた光の列がやってくる。
 四角い光が等間隔で並び、制御された速度で、町を通り過ぎる。