やさしい一日

 なにもしなくても完璧な一日がある。
 こんなふうだった。

 まずあさひがやさしい。
 やわらかいぬのみたいなかんじがする。

 風がいいにおいだ。
 すこしあまい。こうきゅうな香水にだってまねできない。

 のみものがおいしい。
 肩の力がふっと抜けて、しんぞうがしずかに鳴っている。
 
 誰かが電話をかけてくる。
 冗談を言い合って。明日も頑張りましょう。

 好きなことをしている。
 そして、好きなことがもっと好きになる。

 昼寝をして。
 起きたらまだ午後三時で。

 少し仕事でもしようかな。
 メールチェックだけして、今日はもうおしまい。

 カーテンを閉めて。
 部屋を照明で満たす。ここは僕の部屋、僕の部屋だ。

 読書をする。
 ――今日は何もしなかったなあ。でも、何の後悔も不安もない。

 やさしい一日が終わる。
 なんだか明日も、いい一日の気がする。