ベッドの上で
ベッドの上で常のごとく目覚める。枕元の携帯電話で現在時刻を確認する。時刻は10時であった。カーテンの隙間から朝日が差していた。ふとんの中でしばらく寝返りを打っていた。そういえばベッドの上で目覚めないこともしばしばあったなと思い出した。床やテーブルの上で目覚めると、体の節々がこわばって痛いのだった。特に腰が、と思うとベッドの上で目覚められることは結構なことだ。今日は何をしようかなとわたくしは考える。外は晴れているようである。最近は気温が高くなっているから、草木が萌えていることだろう。桜もずいぶん咲いていた。冬眠していた動物たちもきっと目覚め始める時期だ。しかし気軽に外に遊びにいく気持ちにはなれない。令和2年3月27日の日本は、にわかに閉ざされていた。社会が閉ざされようとしていた。誰のせいでもない。先日知り合いがインドのロックダウンについて教えてくれた。外出が規制されていて、外を歩いていると警官に棒で叩かれるらしい。真実かどうか分からないけれどSFみたいだとわたくしは考えた。ずっと前からSFみたいだった。インターネットやヴァーチャルやスマートフォンやモノレールや、ずっと前からSFみたいな世界だった。そんな風に感じるのは、結局はわたくしが何もない場所に生まれたから、というだけのことなんだれけれど。技術が進化して人々の移動が簡単になったことでウイルスの感染拡大は速度を増して広がっていく、という現象よりも、技術が進化してひとつの情報が一瞬で世界を行き来できるようになったことで悪い言葉がウイルスのように伝播する、という部分により不気味さを感じていた。インフォデミックというらしい。それなら都市を封鎖するように、情報を自分から封鎖する必要がある。
本当にインドの警官は棒で人を叩いたんだろうか? その映像は信じられるのだろうか? ロックダウンのために叩いたのではなく、ロックダウン中に泥棒をみつけたから叩いたのだとしたら? 中国とアメリカが戦争を始めますよ。とSさんは言う。前からばちばちだったんです。オリンピックを延期した損害は戦争特需で賄うシナリオなんですよ。とSさんは言う。なるほど、そうなんですね、とわたくしは答える。トイレットペーパーが無くなる、というデマが人間を動かして、本当にスーパーやドラッグストアからはティッシュがなくなった。それなら戦争は始まるのかもしれない。その言葉の中に戦争をはじめる因子が含まれているのかもしれない。インドでは警官が外出した人を殴っているのだろう。26度のお湯を飲むとウイルスが死ぬというデマもあった。ウイルスは死んでいるのだろう。パンを食べた人間は100%死ぬ、よってパンは猛毒である。世界は平和になったらしい。世界は愛で満たされたらしい。愛や平和を歌ったり願ったりすることで意識が変化して本当に世界は平和になるのかもしれない。All You Need Is Loveなのかもしれない。言葉には力があってねそれは言霊というのよ。いまや言霊の力は2兆倍になって、沈黙は金という言葉の価値も2兆倍になった。ベッドの上で世界は崩壊したり平和になったりしている。そして結局ベッドの上でわたくしが何を考えていようと、日差しの下では桜がきれいに咲いている。