スターウォーズと豆の日記

 月曜日が休みの日は映画を見に行くことにしている。

 バスの待合所にはお年寄りが並んでいる。
 中華料理店が軒を連ねる大通りのバス停。発着時間を知らせる電光掲示板を見上げると3分後に目的地へ向かうバスが来るようだ。財布から五百円玉を取り出し左手に握り込んで用意しておく。僕は電車よりバスが好きだなと思った。なんでバスが好きなのか考えてみると、バスは人と向かい合うことが無いからだった。

 イオンに着いてすぐ美容院に向かった。髪を一ヶ月くらい切っていなかったので、伸びてしまった。
 4階までエスカレーターで上がり、美容院に入るとレジの奥に美容師さんが二人立って話をしていたので、待ち時間がゼロであることが分かった。忙しい時にはレジに人が立っていないのがこの美容院の特徴だった。
 ロッカーにコートをかけて、早速席に案内してもらった。
「今日はどうされますか」に対する答えは、もうずっと前からテンプレートとして用意してあり、それを口にするだけで事が足りる。
 美容師さんもそれを心得ている。美容師さんは毎回違う方が担当になるのだけれど、テンプレートの注文で通じなかったことが一度もない。
 鏡の前に座り、目を閉じて色々な言い訳を考えているうちに髪は切り終わっている。
 完成品の自分を見るといつも別人のようでびっくりする。
 美容師さんが後頭部を確認するために手持ちの鏡を広げてくれる時、
「かっこよくなりましたねえ」と言いたいんだけれど、自分を褒めているみたいで、変に思われたら嫌なので、言ったことはない。

 髪を切ったら、次はステーキを食べることにしている。
 カフェと名前がついているお店なのだけれど、メインの料理が何故かステーキで、250グラムで大盛りライスとスープバー付きで1000円で、しかも肉が全然固くなくて美味しいので、明らかにコストパフォーマンスに優れており、この価格は品質に対して安すぎるので、映画を見に行く時には必ず食べることになっている。
 3回に1回の割合で見せしめの席(店外の廊下から丸見えのオシャレな席)に通されるのだけれど、今日は店の奥の静かなテーブルに案内してもらった。BGMは洋楽の女性ボーカル曲だった。いつものでかいステーキとパンケーキを注文した。パンケーキをひとりで食べているとまあまあ恥ずかしいのだけれど、最近ようやく慣れてきたところだ。メイプルシロップをかけてナイフでまんまるを半分に切りフォークで更に半分に畳んで一口で食べる。やわらかい生地に染み込んだメイプルシロップは悪魔的に甘くておいしい。
 エッセイを一冊読み終わった。

 ステーキを食べたら映画を見に行く。今日はスター・ウォーズの新しい作品を見ることに決めていた。
 チケットを買って開場とともにスクリーン10番に向かう。
 スター・ウォーズのことは、僕は全然知らない。まるで素人だ。でも今回のスターウォーズに関しては、ある種の「対策」があって、それを試したいと思っていた。
 スターウォーズを見ない、という人に話しを聞くとお話がわからないから見ないんだ、という意見をよく聞く。僕も確かにお話がわからない。お話がわからないから面白くないかもしれない。でも本当にそう?
 僕はスター・ウォーズというのは映画というよりも「お祭り」なのではないかと考えた。お祭りには元々意味があるはずだ。宗教的だったり土俗的だったり土着的だったり、とにかくなんらかの由来があって由緒があって意味があって奉り=祀り=祭りは催される、はずだ。
 しかし意味、ストーリーなどはいつの間にか忘れ去られ、良い意味で形骸化した行動や雰囲気や儀式的場面だけが現在にも受け継がれている。そしてそれは意味がわからないから楽しくないということはあまりないはずだ。
 意味がわからなくても、現象が面白ければ楽しいはずだ。
 つまりストーリーがわからなくてもスター・ウォーズは楽しいはずなのだ。
 あらゆる作品を常に全的に楽しまなければならないなんてことはないし、すごく映画オタクだという人以外は、もっと部分的に楽しんでいる事が多いのだから、見たいと思ったら何でも見てもいい。
 そういうことを考えながら見たスター・ウォーズの感想は、たのしかったです。

 夜道を帰宅していた。
 大きなマンションの隣の並木道を歩いていると、地面がぱたぱたと軽い音を立てた。
 何か軽くて小さな物が、たくさん空から落ちてきたみたいだ。
 木の実だろうか。
 等間隔に植えられている樹は一枚の葉もない。この季節に実などつけるはずもない。
 歩く速度を緩めて不思議に思っていると、また何か降ってきた。
 ぱたぱたぱた。
 正面から歩いてきた男性も驚いて足元を見た。
 街灯は光量に乏しく、何が降ってきたのか判然としない。
 男性はさっさと歩いて行ってしまう。
 ぱたぱたぱた。
 一定間隔で何かが降ってくる。見上げても空には星が煌くばかりだ。
 好奇心に負けた僕は意を決してしゃがみこみ、音の鳴ったところに近づいて落下物を確かめる。
 小指の爪ほどの大きさの、細長い白いものだ。
 手にとって、謎の物体を見つめていると、近くの団地の一室からはしゃいだ声が聞こえてきた。
「おにはそとふくはうち」