ガラスのくつ

 ガラスのくつが欲しいのに、ガラスのくつの楽しみ方がわからないことに気がついた。
 それはおそらくとてもうつくしいもので、はかなく、高貴だ。
 しかし、それだけなんだものな。
 ガラスのくつを履いて、旅にでも出たい気分で、それはガラスのくつの本当のことを、何も知らないからだと、不意に分かった。
 電車の窓に映る、疲れた顔を見て分かった。
 本当に必要なのは、ガラスのくつではなく、きっと丈夫なスニーカーだ。
 つまずいても、蹴飛ばしても破れない、ふつうのスニーカーだ。
 ガラスのくつが欲しくなったのは、自分ではないうつくしいものになりたかったからだろうな。
 本当に必要なのは、きれいじゃなくてもよかったのにな。